偽りの王子と黒鋼の騎士(六青 みつみ)
笠倉出版社 (2020-01-31)
ボーイズラブ・レビュー
久々すぎるボーイズラブ小説の感想の更新です!
普段は週に1回、コミスぺさんでBLコミックのレビューを書かせていただいておりますので、まったくアウトプットをしていないわけではないのですが、自分ちのブログが放置を極めてしまっておりトホホな状態です。
ええ本当に……育児と仕事と家事によってこんなに心身ともに余裕が失われるとは思ってもおりませんでした。家事なんて可能な限り省力化しているというのに! 見聞きするのと実際やるのは大違いです。
さてそんな中、寝る前の楽しみに読んでいたBL小説がこちら。六青みつみさんの新刊です。転生ものとかじゃないがっつり純正の異世界ファンタジーでソフトカバーの2段打ち。分量でいうと恐らく新書2~3冊分くらいに相当すると思われます。最高ですね。金髪の我儘美人が受ですよ~!カップリングは、
異国の騎士×高慢王子
といったところでしょうか。教育の大切さが身に染みる作品となっております。
以下ネタバレ妄想注意!
紹介文です。
僕はただ、あなたの愛が欲しかっただけ……。
グレイル・ラドウィックの愛と忠誠を、この僕に!
ローレンシア王国の一粒種・エリュシオンは、蝶よ花よと育てられ、我が儘を我が儘だと思わず生きてきた。そんな王子に唯一靡かなかったのは、護衛騎士グレイル。
エリュシオンは運命が変わるという魔法の水鏡に、グレイルのことを密かに願う。
その時、世界は一変した。偽王子の烙印を押され、凋落したエリュシオンはグレイルの下僕となる。
シオンと呼び捨てられ、一から育てなおすかのように接せられるうちに、シオンの中で捨てられずにいた気持ちが溢れてくるが――!?
とにかく冒頭、エリュシオンの高慢さとアホさ加減にイライラします。相当嫌なヤツです。端的に言ってドクズです。私生活で周りにいたら確実にぶっ飛ばしてるし、こんなのがまかり間違えて上司に当たったら即異動願い提出か、それが無理なら転職です。慈悲はない。
あまりの嫌なヤツ加減に、エリュシオンが多少どころじゃなくひどい目にあっても「ざまあ」程度の感想しか抱けなかったくらいです。六青みつみさん安定のモブレが何回か出てくるのですが、私の同情心は特に仕事をしませんでしたね……。受がこんなにイヤな奴で本当に萌えられるのか、むしろ自分の萌えメンタルを心配していました。
もちろん最後までクズということはないので未読の方はご安心ください。
生まれた時から与えられた地位を失い、与えられなかった上に立つのに必要な――というか人として当然の――常識を獲得して、徐々にまともな人間になっていきます。将来傀儡にするために必要な教育から遠ざけられて育ってしまったので、その点に関しては同情の余地があるといえるでしょう。
攻のグレイルも、最初は完全にエリュシオンのことを軽蔑していますが、状況を知ると多少は理解できなくもない……という感想にかわっていきます。王子の地位を追われ、下町でひどい目にあっていたエリュシオンを救い出し、ゼロから徹底的にまともな人間になるように教育を施していくのです。
しっかりBLなのですが、メインカップルがちゃんとくっつくのはかなり最後の方……というか最後の最後です。エリュシオンは高慢を極めたような性格からどん底に叩き落されて、今度は最低限の自己肯定感も失ってしまうので、グレイルがそんな自分を好きになってくれるはずがないと思い込んでいて、そこはさすがにかわいそうでした。もうちょっと自信持ってもいいと思うよって途中から励ましていました。私もちょろいですね。
グレイルはグレイルで、自分がエリュシオンにいつの間にか抱くようになっていた恋心になかなか向き合えません。わかりやすい当て馬に攫われそうになってようやく本気を出すあたり、彼もなかなか難しい男です。
ファンタジーBLらしく山あり谷ありでドキドキハラハラしつつ、ちゃんと切なく萌えもあるというてんこもりな本作、ちょっと一気に読むには手が疲れる重量ですが、その価値は十分にあると思います。ファンタジー好きの腐女子さんはぜひ読んでくださいね!