さよならトロイメライ(尾上 与一)

2019年10月9日

さよならトロイメライ (Holly NOVELS)
尾上 与一
スコラマガジン(蒼竜社)

ボーイズラブ・レビュー


待っておりました、尾上与一さんの新作!!
年明け早々に読めるなんて幸せすぎて……(感想書いてる今はもう月末だけど)!
1945シリーズとは違う読みきりです。
大正ロマンです! 明治と昭和の狭間。
なんとなく混沌とした時代の貿易商の屋敷が舞台です。
執事見習いとか家令とか、主従とか、単品でのBL的萌ワードがそこここに散っております。
しかもイラストが笠井あゆみさんとか、設定とイラストがベストマッチ過ぎました。
あ、裏表紙注意ですよ。
表紙を見せまいとレジでひっくり返すと「アッ!!!」ってなります。
ものすごく、肌色です。

以下ネタバレ妄想注意!

紹介文です。

貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削晶は、嫡男・鉄真の「船を港に導く灯台を建てたい」という夢を側で支え、一緒に叶えたいと願う。二人がささやかで清らかな信頼を静かに育んでいたある日、弓削は宗方家当主である鉄真の父に犯されてしまう。生きる意味を忘れ弄ばれる日々を過ごしていた弓削は、とうとう鉄真や弟の一誠にまで男の狂妄が及んだとき、彼らを守るため、当主を斬り殺す―。罪人であり仇となった弓削に、鉄真は口おしい思いで、一生側で罪を償えと命じるのだった…。鉄真と弓削、波乱に満ちた二人の純愛の行方を狂おしく艶やかに描いた大正浪漫が今、ここに開幕!

まっすぐに育まれるはずであった主従関係と淡い透明な恋心が、屋敷の主たる男が薬におぼれたために捻じ曲げられ、狂ってしまいます。
執事見習いから、いずれ家令にと望まれて屋敷に上がったはずの弓削は、主の敵として屋敷の最下層のように扱われ、執事として働いていても周囲の目は氷点下の冷たさで、愛した男で新たに主となった鉄真にも辛く当たられます。
しかし、鉄真は弓削が好きなままだし、逆もまた然り。
相思相愛なのに周囲の環境と時代が、彼らの結びつきを強固に阻みます。
弓削は屋敷から離れたほうが幸せになれると何度も外に出されますが、どんなに手を尽くしても戻ってくるし、自分から首輪をつけて外そうとすらしません。
ワンオーナードックもかくやという視野狭窄寸前の一途さで、鉄真のことしか考えない弓削は健気を通り越して狂気じみて見えます。

揺れ動く時代の中、鉄真の仕事も嵐のように浮き沈みが激しく、本気で沈みかけたとき、命がけで弓削は鉄真を救う賭けに出て見事に勝ちます。
そして、死にそうになりながら海外から日本に渡って鉄真の元にもどってきます。
もうね、ラッシー。
私の中で弓削は病んだ名犬ラッシーですよ。
とにかく、どんなに不利益で苦難に満ちた未来しか見えなくても、途中で死ぬかもしれなくても主人のそばに寄り添っていたいのです。

結局最後は、鉄真のほうが家を弟に丸投げして病に倒れた弓削とともに出奔することになります。
その病というのが結核で、これまで本当に鉄真から離れなかった弓削は、彼にうつしてはならないと断腸の思いで姿を消そうとしますが、こんどは鉄真がそれを阻んでしまったのです。
もう展開がJUNEです。
ボーイズラブというか雰囲気がジュネ。
薔薇とか牡丹とか羽根とか十字架系の耽美アイテムが二人のバックに舞い散っていてもまったく、違和感ナッシングです。
こういう重苦しくて隠微で退廃的で、それでも純愛な物語が好き過ぎます。
ちなみに同人誌もほぼ同時に出ているので、一緒に読むことを強くお勧めいたします。
切ない気分が加速するので精神力のあるときにどうぞ。

ちなみに私はこの2冊を充電旅行のハワイで読みました!